353log

主に映画の感想文を書いています

「ビフォア・ミッドナイト(2013)」雑感

f:id:threefivethree:20191111212316p:plain

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(1995)」「ビフォア・サンセット(2004)ときて、一気にシリーズ最新作ビフォア・ミッドナイト(2013)まで観ました。

9年スパンで製作されている本シリーズ。1作目から変わらず、キャストはイーサン・ホークジュリー・デルピー、監督はリチャード・リンクレイター。劇中の時間経過もリアルタイムとなっていて、1作目での出会いから18年経ったのが本作です。

あらすじ

「あの日」から18年。ジェシーイーサン・ホークセリーヌジュリー・デルピーは晴れて結ばれ、娘たちと一緒にギリシャでバカンスを過ごしていた。空港で男の子を名残惜しそうに見送るジェシー。彼は前妻との子で、遠く離れて暮らしている。息子と暮らせない鬱憤をジェシーセリーヌに吐き出すが、セリーヌの鬱憤もまた溜まっているのだった。

あらゆる倦怠した関係に

そうきたか…! まあ、そうなるか…。前作が幻滅しない続編だったとすれば、本作は多くの部分において幻滅させられる続編です。ざっくり、倦怠期の夫婦映画です。ウディ・アレンみ出てます

ふわっとフェードアウトした前作から9年後、状況はどうなったのかということがどんどん見えてくる冒頭数分の空港シーン。ロータリーで待つセリーヌの「魔法のかかってなさ」。ああ生活感出ちゃったな…と。

かといってこのふたりが無口な倦怠夫婦になってしまったのかというとそうではなく、空港から15分間ほど固定アングルで延々と続く車中の会話が、おもしろい! 間が持つ! ユーモア健在! やっぱこのふたりの会話は楽しい!

ただ、そんな会話のなかでジェシーセリーヌの地雷を踏んでしまいます。これまでならそんなヒリついた空気もどうにか立て直してきたジェシーですが、今回ばかりはどうにも修復できなさそうな深さにまで亀裂が走ってしまうのでした。

観終わったとき、最初は「違うライフステージの話だから本当には分からないんだろうな」と思ったのです。未婚、子なしのわたしには。でも反芻してみると、男女関係に限らずあらゆる倦怠した関係に当てはまる映画だと思えてきました。

仕事でも趣味でもなんでもいいですが、自分が人生を捧げたもの。少なくとも当初はいい意味で「人生を狂わされた」もの。輝いている時代があったもの。そして今は、それに人生を捧げたことが間違いだったのではないかと思い始めているようなもの。愛憎入り混じったもの。

劇中で、そこそこヒリついているはずなのに団欒の席ではつい馴れ初めを語ってしまうふたりがいます。歩きながら昔話なんぞをしていたらそこそこいい雰囲気になってくるふたりがいます。しかしその数時間後には「もう愛してない」と言ってしまったりもします。

個人的にこれすごい、わかる…。残念ながら男女関係ではありませんが(笑) 今まさにこういう状態にあったなと、突然なにか自分の中でストンときました。要は、長く自分の中心にあったもの、それを否定するかどうかみたいなこと。ヤケを起こしそうになっていたけれど、タイムマシンで未来からやってきたわたしは自分に何を忠告するだろう?と、わりと本当にこの映画を観て思いとどまったかもしれません。

まあなんのこっちゃですね、ここだけ日記です(笑)

ちなみにこれ、ようやくシリーズ観終わっていろいろ調べてたら、鳥肌立つくらい伏線が仕込まれていたことを知りまして。「夫婦喧嘩」「タイムマシン」。この2点が特にうわああ!でした。ピンと来なかった方は、ぜひもう一度「ビフォア・サンライズ」に戻ってみてください。

ものすごいヌードシーン

あのヌードシーンすごくなかったですか。すごいんですよ。あんな両極端なヌードシーンがありますか。同じものを見ているはずなのに、なんという感情の振れ幅よ。人はあらゆるところで魔法のお世話になっているんだなと思いました。

このシリーズは「ものの見え方」の描写がものすごく巧いんですよね。1作目の「祭りのあと」な風景しかり、今回のホテルでのブツ撮りしかり。ショッキングなことがあった時とか、目の前にある物ってああいう見え方しますよ確かに。よくあの感じを映像で再現できるな…!

見え方という点では、くたびれちゃったようにも見えたセリーヌジュリー・デルピーさんはあくまでそう「見えた」だけで、思いっきり魔法がかかってる時もありました。特にマリリン・モンロー風のおバカ娘になりきるくだりなんか、魅力的×抱腹絶倒。最高。

果たして2022年の4作目があるのかは不明ですが、どうなってるでしょうね。案外あっさり別れて、でも距離置いたらまた好き合うようになってたりして。興味あるような、ないようなです。

というわけで「ビフォア」3部作、かなり楽しませていただきました。出会うべくして出会った、運命的なものを感じる作品でした。ただの甘く切ないラブストーリーと思ったら大間違いでございます(2/3は合ってるけど)。

(2019年135本目)

トリロジー、買おうかな…。

「ビフォア・サンセット(2004)」雑感

f:id:threefivethree:20191108214333j:plain

ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(1995)の、9年ぶりに作られた続編です。前作の9年後というリアルタイムな設定になっています。主演は変わらずイーサン・ホークジュリー・デルピー

あんな甘酸っぱいロマンスの続編、野暮になってしまわないのでしょうか。心配しつつも観てみました。

あらすじ

あれから9年。ジェシーイーサン・ホークは作家になっていた。各国をまわるプロモーションツアーの最終地パリで、彼の前に「彼女ジュリー・デルピー」が現れる。あの日交わした約束を、ふたりは果たせていたのだろうか。夕暮れまでのわずかな逢瀬、9年間の空白が語られていく。

続編の最適解

お見事っ!!! お見事でした!!! 素晴らしい。もはやリチャード・リンクレイター監督に絶対の信頼を置く他ない状況に置かれております。

まずは冒頭、9年越しの再会、それもあれだけ美化された記憶との再会というハードルを超えなければいけないシーンですよ。──パリのシェイクスピア・アンド・カンパニー書店でジェシーが自著の取材に答えている。どうやら「あの日」のことをフィクション小説にしたらしい。

これはあなたの実体験をもとにしたものですか? 作中の彼女は実在する人物ですか? ふたりは半年後に再会できたのでしょうか?

「それを言っちゃ野暮だよ」と笑いながら対応するジェシー。狭い店内をカメラが切り取っていく。記者。スタッフ。ジェシー。記者。セリーヌセリーヌ?!

は〜! こんな淡々と、かつ衝撃的に登場させるとは。そうきましたか。うわ〜〜。この時点でわたしは大満足しておりました。

あえてメタ的視点を使い、その先を描くのって野暮だよねわかってるよ、と「懸念の共有」から入る作りも非常に配慮が行き届いていると感じました。実世界で9年も経っていれば完全にみんなの物語ですからね。

んでもってここは、こう言っちゃあれですが、でもぶっちゃけ一番大事なところでしょう、美化された記憶との再会、つまり10年近く経ってもあの娘は変わらず魅力的なのかどうか。結構心配していたところでございました。杞憂! なんだこの、ジュリー・デルピーさんってば魅力のバケモノか! 幻滅しなさがすごい。

今回も全編会話劇で、やはりタイムリミット有。ビフォア・サンセットってことは夕暮れまでか…と半日程度を想像するかもしれませんが、実際はおそらく1〜2時間程度という短さ。それを80分尺で描いているという美しさ! 監督! 好きです!

あの日ほどの刹那感は漂っていなくて、飛行機までの時間ちょっと話そうよという割り切った大人の感じ。話題も思想や現実が生々しく出てきて、あの日ほどの楽しさはない感じ。前より増えちゃった地雷なども踏みながら。でもそれが、いいんだなあ。

そんでね、終わり方がまたセコいんですよ。前作は出会いと別れがイベント的にはっきりしてたんですけど、本作はいつの間にか始まっていつの間にか終わってる映画なんですよ。フェードアウトがしっくりくる曲ってあるけど、フェードアウトがしっくりくる映画っていうのもあるのですね。

とにかく、ラブストーリーの10年後を描いて幻滅させないというのはすごいことだと思います。10年間その魅力を磨き続けていたキャスト、きっと構想をずっと練っていたであろう監督、関係者たちの継続的努力なしにはこの見事な続編、実現しなかったことでしょう。

そして繰り返しになりますが、9年越し、満を持しての続編をたったの80分という尺にふわっと収めてくれた監督の英断と手腕、ほんっとに素晴らしいです。さらなる続編「ビフォア・ミッドナイト」も素敵な作品であることを願いつつ…次いってみよう!

(2019年134本目)

ビフォア・サンセット [DVD]

ビフォア・サンセット [DVD]