「彼方のうた」「パトリシア・ハイスミスに恋して」「ゴジラ-1.0」のはなし。
まとめて書くにはジャンルが違いすぎて、適度に振り分けて書こうかな、なんて思っているとどんどん書かずに過ぎてゆき。てなわけで、やっぱり全部ごちゃ混ぜに書いてゆきます。ここ2週間くらいで観た新作映画たち。(の、結局前編。未来のわたしより)
▼東京国際映画祭にて、杉田協士監督の最新作『彼方のうた』を鑑賞。会場は角川シネマ有楽町。初めて行きました。正直「TOHOシネマズでいち早く観る」よりは「ポレポレ東中野の初日で観る」ほうが杉田作品には合うよなあと思っており初回の上映はスルーしてたのですが、2回目は少し箱が小さくなったぞということで「いち早く観る」を選びました。おっと、このペースで書いていくと長いぞ。
感想としては、揺るぎない杉田ワールドでしたね。具体的に言うと、ずばり前作『春原さんのうた』の続編的世界で、当然のようにキノコヤさんは出てくるし、あの人もこの人も再登場する。杉田協士ユニヴァース、キノコヤユニヴァース、ますます極まっております。『春原さんのうた』がお好きだった方は鑑賞マストです。1月5日から本公開。あとそうそう、オムレツが食べたくなるので、洋食屋さんの目星をつけておくとよいです(もしくは、ちゃんとおうちで作るか)。わたしはたまらず東京駅地下の「卵と私」に駆け込みました。
▼新宿シネマカリテにて、ドキュメンタリー『パトリシア・ハイスミスに恋して』を鑑賞。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』『キャロル』などの原作者として知られる作家ハイスミス。レズビアンでもあった彼女の生涯を、タイトルどおり愛を込めて見ていく一作。自らの経験が色濃く反映された『キャロル』とも重なっていくようなエピソードの数々に、いつしかドキュメンタリーというよりは人間ドラマとして、感情移入しまくりながら、心を掻き乱されながら観ました。
ハイスミスのことは「『キャロル』の原作の」と言われれば「ああ!」くらいの認識で、本作も少し前に予告で見て「ハイスミスの顔がよくて」うわ見たい、となった程度のアレだったんですけども、そんな動機で観ても(その期待も満たされる)非常に満足度の高い作品だったので、とりあえず予告編をどうぞ。おすすめです。ハイスミス、『キャロル』だとテレーズ側だと思うんだけどビジュアルは完全にキャロル側=ケイト・ブランシェットなんだよな。もしくは(もしくは?)サリー・ホーキンス。
さらにこの日は、前述したばかりの杉田協士監督とライターの月永理絵さんによるトーク付き上映。杉田監督ってどちらかといえば口数の少ない印象があったのですが、いや、めちゃくちゃ饒舌で(笑) 映像作家視点での本作の分析とか、『キャロル』の出会いのシーンがいかに良くできているかとか、音楽面での考察とか、あとは『アメリカの友人』に出てくる「とある小道具」が『彼方のうた』とも関連しているとか、いつまでも聴いていたくなる、乗りに乗ったトークでした。
▼同じ日。新宿バルト9のDolbyCinemaにて『ゴジラ-1.0』を鑑賞。普段だったらこのハシゴはしないですけどね、久しぶりに会うお友達と何か映画見よーってことになったので、一番パーソナルとは遠そうなやつを選びました。もちろん注目はしていたし、この日(公開初日)はゴジラ生誕70周年でもあって、どうせいつか観るならベストな日だったでしょう。
何かと揶揄されがちな山崎貴監督、による本作ですが、とはいえ予告の時点で「なんか、これは期待できそう」と思っておりました。おそらく多くの人がそう思っていたはず。で、結論から言えばすごく良かったです。まず、VFX。これが日本映画では見たことがないレベルのハイクオリティなもので、ケチの付けようがないくらいと言っていいんじゃないでしょうか。画的にチープなところがないというのは、それだけでかなり雑念を排除してくれるんだなと実感しました。
そしてお話も、これ全くエンタメじゃないんですよ。広義のエンタメではあるけれど、『シンゴジラ』がエンタメだとするならば、こっちはエンタメとは言いたくない。見ててしんどい戦争映画の類に近い。戦後の焼け野原から少し復興できてきたかな、くらいの時に今度はゴジラが上陸して「復興」を全部ぶち壊すんですよ。もはやメタファーじゃないんすよ。エグい。それこそ『福田村事件』なんかのほうに寄ってる作品だと思います。まあ、意義とか、どうなんだろう、わかんないけど、「山崎貴のゴジラでしょ」でスルーするべきではない作品です。
観賞後、お友達といろいろ話して整理できたのもよかった。終盤のミスリード、塩梅が上手いなーとか。そうだよね、あそこはそうじゃなきゃ、どっちの戦争も終わんないよねとか。浜辺美波さんがイーサン・ハントだったところだけは唯一わたし雑念すごかったですけどねとか。あと映画とは全然関係ないけど、この日は数席隣に「全身真っ赤で金髪」の某芸能人さんがおりまして。普通にあの姿でエスカレーター降りていくのすごいな、心強いなとか、そんな思い出も。
あ、だめだ! 長くなりすぎる! ここまでを前半とする!
そしてこちらを後編とする。
「コカイン・ベア」から山形国際ドキュメンタリー映画祭まで、最近観た映画あれこれのはなし。
この一週間くらいの、雑多な鑑賞記録をどうぞ。
▼グランドシネマサンシャイン池袋にて、今泉力哉監督の最新作『アンダーカレント』を鑑賞。あ、こんな寡黙な映画も撮るんだと驚きつつ、今泉作品に求めているテイストではなかったなという気持ちが強く、という感じ。あと『福田村事件』なんか観た後だと、あんまりにも同じ人ばっかり出てんなあというような気持ちもちょっとばかしノイズに。俳優いないのかしらと思っちゃいました。
▼TOHOシネマズ池袋(初めて行った。ブリリアホールもあのへんなのね。ハイソな雰囲気にちょっとテンション上がった)にて、『コカイン・ベア』を鑑賞。コカイン過剰摂取しちゃったクマさんが自然公園で人間殺しまくるスプラッター・ホラー・コメディ。なかなかエグいんだけど最終的には金ローでやってそうなアドベンチャー映画風に終わろうとするのがうける。あと何気にキャストが豪華。ハン・ソロだったん?!
▼山形にて先週開催されていた「山形国際ドキュメンタリー映画祭」へ、クロージングのタイミングで空気だけ味わいに行きました。ヤン・ヨンヒ監督の『愛しきソナ』と、レアなテレビドキュメンタリー『揺れる心』を、監督のトーク付きで鑑賞。『揺れる心』は、在日コリアンの高校生たちが通名(日本名)を使い続けるかどうか同級生と一緒に考えていく記録。
ヤン・ヨンヒ監督の『ディア・ピョンヤン』『愛しきソナ』『スープとイデオロギー』は少し前に横浜シネマリンで一気に観て、このブログにも下書きでほぼ書き上がっていたのだけど上げられていなくて。端的に言えばすごくハマってしまって。ヤン・ヨンヒ監督のドキュメンタリーはとにかく人間が魅力的で、監督自身がカメラを回しナレーションもつけていくスタイルによる作家性も非常に強くて、ああ好きだなあと今回改めて確認。
チャン・リュル監督の『白塔の光』という作品も観に行ったのですが、こちらは三分の二くらい寝てたのでノーカンで(睡眠不足が、ここにきて)。表彰式の空気まで吸って、夜行バスで鶴岡へ。
▼翌日、今年3月に再オープンした「鶴岡まちなかキネマ」へ行きました。なかなか気軽に行ける場所ではないので、いいタイミングでした。ここでは『almost people』を鑑賞。四篇からなるオムニバスの日本映画。二篇目がめっちゃ変な作品だったのでキョトンとしてしまったものの、全体的には味わいの深い、誰かと感想を語り合うのが楽しいタイプの作品でした。
同日、鶴岡から特急で20分くらいの酒田へ。酒田は、じつはわたしの本籍地で。とはいえ物心ついてからは訪れていなかったので、へえ〜〜こんな町だったんだ〜〜と新鮮でした。勝手に抱いていたイメージよりも「いい町」でした。ここでは『世界一と言われた映画館』のグリーン・ハウス跡地などを探してみたりしました。
▼本日、早稲田松竹にて。Twitterで情報を見かけた「シャンタル・アケルマン監督特集」が、なんだか今の自分に必要な気がして滑り込み。『ゴールデン・エイティーズ』『一晩中』の二本立てを鑑賞。アケルマン監督は、作品はおろか名前すらよく知らず、まったくただの直感だったんですが。
『ゴールデン・エイティーズ』は、偶然にも我が生まれ年1986年の作品。すごく小さなショッピングモールみたいな「狭い世界」のみで展開していく、ダサダサなフレンチミュージカル。惚れて腫れて、横恋慕だのなんだの、「恋は病」極まりないコメディなのですけど、あれ?意外とこれ、深いかも。傷ついた心を救ってくれる映画かも。おすすめです。
もう一本の『一晩中』は、商業要素ゼロのジム・ジャームッシュ『ナイト・オン・ザ・プラネット』みたいな。真っ暗な画面でよく知らん男女とかが沈黙したり抱き合ったり、が延々続きます。静かな映画なのに生活音が超やかましいです。もしかしてコメディなのか?と思いました。夜が明けるところでようやく目が覚めました。疲れの取れる映画です。
以上、観れてる観れてる。よしよし。