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主に映画の感想文を書いています

岩波ホール最後の上映作品「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡(2019)」を観た

2022年7月29日をもって閉館となる神保町の老舗ミニシアター岩波ホールに行ってきました。じつは今まで行ったことがなく(神保町へ行くときはいつも岩波ホール直結のA6出口から出ていたので完全に素通りし続けていたことになります)最初が最後になってしまったわけなんですが、こんなかたちにせよ行けてよかったです。

なお岩波ホールで上映されていた作品というところでは、シネマ・チュプキの「ありがとう岩波ホール」特集上映にて先月『ベアテの贈りもの(2004)』『宋家の三姉妹(1997)』を鑑賞しました。

岩波ホールの柱に貼られたチュプキの上映案内。7月には『ハンナ・アーレント(2012)』『終りよければすべてよし(2006)』の2本がラインナップされています。岩波ホール受付カウンターのすぐ横でも告知いただいてました。

さて、今回鑑賞した作品は、ヴェルナー・ヘルツォーク監督によるドキュメンタリー『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』岩波ホール最後の上映作品ということになります。


映画「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」ポスター
映画「歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡」ポスター


これがまあなんとも、なんだろう、図書館の普段行かないフロアに足を踏み入れてしまったような作品で。早世の作家ブルース・チャトウィンを知らない、ヘルツォーク監督を知らない、何もかも知らないわたしとしては、かなり背伸びをして観るような作品でございました。ドキュメンタリーって「何も知らなくても楽しめる」ものだと思っていたんですが、持論揺らぎました(笑)

ただ、ざっくり言えば「旅の話」なので、その面では知的好奇心をくすぐる作品でした。札幌・モエレ沼公演を彷彿とさせるエーブベリー遺跡の人工山「シルベリーヒル」、ハリウッド映画の撮影にも多数使われたというオーストラリアの砂漠地帯「クーバーペディ」、9000年以上前の古代人がつけたという鮮明な手形がある「クエバ・デ・ラス・マノス」等々、うひょーとなること必至です。

チャトウィンが気に入っていたというヘルツォーク監督の言葉「世界は徒歩で旅する人にその姿を見せる」も、歩き回る旅が好きなわたしとしては非常に共感できるところでした。パンフレットに詩人・明治大学教授の管啓次郎さんが寄稿されていたエッセイもまた素敵な文章だったので、ここに一部引用したいと思います。

 人間にはひとりで旅をする力はない。ひとりで旅を構想することはできない。あらゆる旅には必ず先行者がいて、われわれに道をしめしている。ぼくはずっとそんなふうに考えてきた。その始点にいたのはこのふたりだった。ぼくはかれらの模倣者だ。
(『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』劇場用パンフレットp32より)

「このふたり」とはチャトウィンヘルツォーク監督のこと。わたしの好きな所謂「聖地巡礼」などもつまりはこういうことなので、すごく「ああ!」と言語化してもらった気持ちになりました(尾道探訪記、早く続き書かなきゃ)。このエッセイでパンフレットが終わる構成なのもにくいです。

ところで岩波ホールが本作を「最後の上映作品」に選んだのはどうしてなんだろう、そう思いながら観ていたのですが、全8章から成る本作の、最後のチャプターでなんか腑に落ちた気がします。ずばり〈本は閉じられた〉。本のまち神保町でひとつの歴史あるミニシアターが幕を下ろすのにふさわしい、小粋な文言だなと思いました。

岩波ホール2022.06.28の記録

駅ホーム。「岩波ホール A6出口」の案内。
神保町駅のこういった表示も来月にはなくなっているのでしょうか。

ところどころ飛び出した煉瓦の壁。
ライミングできそう、でお馴染みA6出口。

大きなパネルに『歩いて見た世界』のポスター
A6出口地上階、そして岩波ホール入口。入ってすぐの場所に七夕飾りがあり、短冊には劇場ファンからの感謝の言葉なども書かれていました。

岩波ホールへ入ってすぐ左側、自販機の横に白い螺旋階段。天井に空いた大きな穴の先に突き抜けている。立ち入り禁止。
先月チュプキで『ニュー・シネマ・パラダイス』をかけていたとき、代表・平塚さんが「岩波ホールも映写室への階段が螺旋階段なんだよ〜」としみじみ言っていた、おそらくそれ。アルフレードを引きずり下ろしたくなります(だめ)。

入って右側、シアター側の壁。天井まで届くほどの膨大な量のポスターが敷き詰められている。同じく。
壁にはこれまでの上映作品ポスターがずらりと貼られています。

シアター入口から撮った写真。
シアター内。もっと古びたものを想像していたので、とても綺麗なことに驚き。多目的ホールとして残されるのでしょうか、それとも解体されてしまうのでしょうか……。なお写真は入れ替え時。入場開始後は、平日にも関わらず大入りでした。上映前のちょっとした映像とアナウンスに、初めて来たのにちょっと涙。『ニュー・シネマ・パラダイス』しかり、映画館がなくなるのは寂しい。

パンフレットにも「岩波ホール最後の上映作品」と記載あり。
パンフレットと、最初で最後のチケット。

以上、誠ににわかで恐縮ながら岩波ホール最後の記録をネットの海に放流します。岩波ホールさん、長きにわたりお疲れ様でした。

(2022年112本目/劇場鑑賞)

まっぷるさんで細田守監督作品6本の紹介記事を書きました

まっぷるトラベルガイド」さんにて、今週&来週の金曜ロードショー時をかける少女』『竜とそばかすの姫』放送に合わせた記事を書かせていただきました。全6作の作品紹介と簡単な聖地紹介です。

いや待って『竜とそばかすの姫』わたし結構けちょんけちょん書いちゃってますけど大丈夫なんですかと確認したところ、けちょんけちょん記事をチェックした上でのご依頼とのことでしたので僭越ながらお受けした次第です(ついにトラベルガイド的な記事ですし!)。

なお書くにあたり『未来のミライ』は遅まきながらの初鑑賞、『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『竜とそばかすの姫』は再度鑑賞しました。初見時とだいぶ印象変わったなあ、なんて作品もあったため、こちらでちょっと補足していこうと思います。

おおかみこどもの雨と雪(2012)

いちばん見え方の変わった、自分の中での評価が上がった作品でした。“彼”と“花”の幸せな時間や、校舎の横移動で見せていく子どもたちの成長など、画だけで月日・年月を経過させていく描写が、こんなに素晴らしかったかと。アニメーションとしての作り方が巧いなあと心底思ったし、純粋に感動しました。

成長するにつれ自らのアイデンティティに思い悩んでいく子どもたちの描写もすごく普遍的で、それこそ鑑賞タイミング的には『マイスモールランド(2022)』などとも重ねて見ていたりして。これは自分自身の経験とか知見の広がりから真価が見えるようになったということなのかもです。

“雪”と“草ちゃん”の、カーテンのシーン好きだったなあ。ありのままの自分を受け入れてもらえる、ああいうシーンに年々弱くなっていきます。多分これからも観るごとに心の動かされる部分が変わっていきそう。

『バケモノの子(2015)

『おおかみこども』から本格的に始まった細田監督の「ケモノ」路線がわたし苦手で、これもだいぶ記憶から消していたような……。人間世界のパートにいたっては全く覚えてなかったので、そこが新鮮でしたね。幼くして人間世界から離れてしまったらそらそうなるよねというやけに現実的な部分の描き方が、でも好きでした。勉強したくなる映画でした。

あと、あそこまでモロにリリー・フランキーな豚もそうそういないですよね。あれは見事なキャラクターデザインだと思います(笑)

未来のミライ(2018)

この作品のみ初見でしたが、なかなかしんどかった。まずもう開始早々、上白石萌歌さんの声が全く幼児に聞こえなくて、最後まで結局慣れないんですけども。これはそもそもディレクションが罪でしょと思ったし本業声優さんへの冒涜でもあるし、だいぶ嫌悪感ありました(萌歌さんに、ではありません。念の為)。

お話自体も、子どもが苦手(『カモン カモン』でお察し)なわたしとしては苦痛でしかなくて、親の対応含め、こんなひたすらストレスの溜まるもん見せられる映画ある??って思ってました。監督の実体験が多分に反映されてるんでしょうけど、反映させすぎでしょ。ツイッターかよ。

ただ、現実から跳躍していく部分に関してはさすがの面白さでしたね。細田監督の強みは絶対にこっち。子どもの電車好きを活かしたあれこれも秀逸で、個人的には“くんちゃん”が初めて口にする駅が「田端」なのが高得点。まあ、新幹線の車庫あるしね。『天気の子(2019)』といい、ご縁があります。

それから聖地として紹介もしている競馬場の廃墟「旧根岸競馬場一等馬見所跡」。現地には行けていないんですけども、生で見てみたいなと思いました。諸事情により「見れない側」があるらしいのもロマンです。

『竜とそばかすの姫(2021)

こちらは公開時の感想と特に変わらず。〈U〉の世界は本当にさすがの素晴らしさだし、音楽も最高だし、でも現実パートがきっつい。なんだ、なんなんだこの、ことごとく合わない感じ。そう、ことごとく合わないってことなんでしょうね。not fo me。……いや違うんだ、細田作品の困っちゃうところは、心底「さすが!」と思える大好物な面もあることなのだ。それだけに悔しいんだ。そういうことなんだきっと。もにょもにょ。

まあとにかく、「めっちゃいい」とこと「めっちゃ好かん」とこをより両極端に再確認した感じです。以上、記事のほうには書かなかった(書けなかったわけではありません)アレな感想も含めつつの補足でございました。なんだかんだ『未来のミライ』が一番語り甲斐あるっていう。

ついでにもうひと記事

まっぷるトラベルガイドさんで初めて書かせていただいた「泣ける映画50選」という(いきなり地獄の50本ノックみたいな)記事があるのですが、そこから「深掘り」っていうか駄話を広げていく記事の第1弾「洋画編」も公開となっております。

前にも書いたようなエピソードから最近のエピソードまでいろいろ入っている、出張版「353log」的記事です。よろしければぜひ、お読みくださいませ。