353log

主に映画の感想文を書いています

映画「ホドロフスキーのDUNE」と1984年版「デューン/砂の惑星」を観た 〜ヴィルヌーヴ版の予習として〜

先週からドゥニ・ヴィルヌーヴ版の『DUNE/デューン 砂の惑星』が公開になっていますが、「ドゥニ・ヴィルヌーヴ版」とか書いておきながらわたし、この『DUNE』というSF作品のことをそもそも全く存じ上げず。せっかくなら予習してから観るか〜と関連2作品を鑑賞しました。


映画「ホドロフスキーのDUNE」ポスター
映画「ホドロフスキーのDUNE」ポスター

1本目は2013年公開のホドロフスキーのDUNE』。こちらはなんと〈実現しなかった映画化企画をドキュメンタリー映画化したもの〉です。デューンのデュの字も知らずにこんなマニアックなもん見て楽しめるのだろうかとも思ったんですけど、どっこいこれが超おもしろかったです。

まずはその「実現しなかった映画化企画」自体がすごい。なんていうかもう完全に「ぼくの考えた最強の映画」なんですよ。そしてそれを満面の笑みで語ってくれるアレハンドロ・ホドロフスキー監督自身が強烈に魅力的で。めちゃくちゃ美味しそうな餅の絵を描ける、映画監督としてひとつの理想形だと思いました。

その餅の絵、とにかくすごいです。キャストひとつ取っても、ミック・ジャガーに出てもらおう! オーソン・ウェルズに出てもらおう! ダリ(ぐんにゃり時計のダリですよ)に出てもらおう! ピンク・フロイドに音楽やってもらおう! みたいな。しかもその交渉が一時は実際ちゃんと成立しているのがすごい。

スタッフたちもホドロフスキー監督がいちから気鋭の才能をハンティングしていって。プロジェクトは頓挫してしまうわけですが、映画史的にはここで集まったメンバーたちが他のプロジェクトでリユニオンして『エイリアン』や『ブレードランナー』に繋がっていくとかいう、くらくらしちゃうエピソードの数々。「存在していない映画が後世に大きな影響を与える」だなんて大袈裟そうに聞こえて、これはどうやらマジな話です。

ホドロフスキー監督、わたし的には大林宣彦監督が重なって見えました。大林監督って自作の解説をとくとくと語れるお方で(DVDには必ず長尺のディレクターズトークが収録されています)、誰もが引き込まれてしまう語り口だし、すごくいい映画を観た気分にさせられてしまう。でも実際の作品は往々にしてアバンギャルドホドロフスキー監督もカルト映画の始祖らしいので、もしこの企画が実現していたとして、しかし本作を観て多くの人が思い浮かべるような作品にはならなかったかもですね。

それはさておき、大林監督が言うところの「フィロソフィー」の部分をしっかり映像作品として残した本作は、〈正真正銘ホドロフスキー監督版『DUNE』を観た〉という不思議な擬似記憶を植え付けてくれました。何を言ってんだって感じですが、予備知識ゼロで観てもおそらく同じ感想に行き着くと思います。非常におもしろく、存外に感じ入ってしまうドキュメンタリーです、おすすめです!


映画「デューン/砂の惑星」ポスター
映画「デューン/砂の惑星」ポスター

で、そのあと観たのが1984年公開の「実現した映画化企画」ことデューン/砂の惑星。監督はデヴィッド・リンチ! まあじつは『ホドロフスキーのDUNE』を観るとこのリンチ版を観る気はだいぶ失せてしまうんですけど(笑) でもまあせっかくなので観ておきました。途中で起きてられなくなったので2日に分けました(お察し)。

ざっくり言えばB級映画の類に入ると思います。「カルト映画」と呼んでしまうとちょっと褒めの要素が強くなる。そんなに褒めてないです。大林映画に例えるなら、奇しくも原作にDUNEの影響があるという『漂流教室(1987)』でどうでしょう。

なんかふと思ったのは、『時計じかけのオレンジ(1971)』ってめちゃめちゃよくできてるんだなって。テイスト的には意外とかなり似てるはずなんですけど。いきなりスパチカねんねとか言われてもすんなり楽しめるの、すごいわ。

突っ込みながら観るのが楽しいタイプの映画ではあります。うそでしょってくらい最初から最後まで突っ込みどころに満ちてます。でもヴィルヌーヴ版の予習として観るのはあまりおすすめしません。目下わたしの心配事は、シャラメも「チャークサ!!」すんのかな……ってことです。

(2021年177〜178本目/U-NEXT)

ヴィルヌーヴ版、近日中に観てきます。ちなみに『デューン/砂の惑星』はデヴィッド・リンチの前にリドリー・スコットで企画が進んでいたそうです。そんなリドリー・スコット監督の最新作『最後の決闘裁判』が非常に素晴らしかった……。原作本を読み終えるまで感想はおあずけですが、こちらもぜひ映画館でご覧くださいませ(追記:書きました)。


さらに追記:ヴィルヌーヴ版、観ました。「ヴィルヌーヴ版の予習として観るのはあまりおすすめしません」と書きましたが訂正します。観ておいたほうが楽しいです。

映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)」感想|パロマさんWILL RETURN熱望

こんにちは、映画を観る時間がない異常事態です。時間がないといえば『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ですね(頭も悪い)。


映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」ポスター
映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」ポスター


映画を熱心に観るようになったのがせいぜいここ5年くらいのことなので、ダニエル・クレイグのボンドをスクリーンで観るのは今回が最初で最後。元々は『ドラゴン・タトゥーの女(2011)』でダニクレかっこいい!ってなって(もちろんリアルタイムではない)、この人がボンドなんだ!ってな流れで4作品一気見したような記憶があります。

さて、MCUですら毎回(覚えてねぇ……)と天を仰ぐわたし、とにかく記憶力がだめです。よって今回はしっかり復習しました。ちょうど公開日の週末がコロナのワクチン2回目だったので安静がてら再度一気見。案外覚えてるもんだなと思いましたが名作『スカイフォール』の記憶が意外と抜けてたり、逆に存在すら忘れていた『慰めの報酬』の内容はやたら覚えていたり。分からぬものです。

ちなみに公開日は10月1日で、今日は10月16日。時間と気力がなくて結局2週間以上おあずけにしてしまいました。それも「いいかげん観ないと詰むぞ!」と鞭打って行った感じなのでモチベーションとしては高くなくて。でも行ってよかった! 最初で最後のダニクレボンド、大いに楽しんでまいりました。

★ドキュメントジェームズ・ボンドとして』の感想も末尾に追記しました。

サプライズに満ちたアバン

今回のアバンタイトル、かなり好みでした。まずマドレーヌ幼少期のくだり。ラミ・マレック扮する能面の男が彼女の生家を襲うわけですが、能面で「ドンッ!!」は完全にホラーじゃろ。音楽もホラー/スリラーのそれでしたからね。掴みばっちりな出だしです。

続いてイタリア、現在のマドレーヌとボンド。予告で何度も何度も見た「橋」や「広場」が遠景で映し出されて、ああ、ここがクライマックスの舞台となるんだな、なんて思ったのも束の間、橋バンジーみたいなやつも、スティーブ・マックイーンばりのバイクアクションも、機関銃付きボンドカーくるくるタイムも、予告の内容はほぼアバンでしたね(笑)

ボンドカーの荒唐無稽なギミックは『スペクター』よりもさらにおふざけが増していて、まさかの「まきびし」には笑っちゃったし(過去作に出てくるんでしょうか)、何より防弾性能がすげえ。クラシックなアストンマーティンだからこそのギャップの魅力ですねえ。仕事を終えた機関銃が静かにライトの奥へ戻っていくのとか少年心に刺さりすぎました。

また印象的だったのは、ヴェスパーの墓前におけるサプライズ。不意打ちとはこのこと。冒頭の能面ドンッ!!をはじめとして、序盤はこういったサプライズがそこかしこ周到に仕込まれていて楽しかったです。観客とボンドとの油断具合がシンクロするっていうか、ボンドですら読み切れてない不意打ちですから当然こちらも超びっくりしちゃうんですよね。

とまあこのへん全部アバン。オープニングをエンドクレジットと勘違いして帰ってもいいぐらいには満足しました。

私はここまで! いやいやご謙遜を

アバンで満足して帰ってはいけない理由がひとつあります。それはアナ・デ・アルマスさん扮するボンドガール、パロマ。否、今の時代はボンドウーマンと呼ぶそうです。

映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」ポスター
映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」ポスター


このパロマさんはですね、端的に申して「好い」。めっちゃ、好い。セクシーなドレス姿は所謂ボンドガールのイメージそのものなわけですが、それと二丁拳銃のギャップがたまんない。ドレスアップした女性とガンアクションのマッチング、最高。またここはボンドが正装している数少ないシーンなのでその点でも芸術点高くて、戦闘中にバーカウンターでグラスを交わす「粋」よ! これぞ! これぞボンド!

そして完璧な短期集中型アシストからの「私はここまで!」。えっ嘘でしょ。わたしの心はもうすっかりマイスイートボンドガールことレア・セドゥから浮気していたのに。いやいや、まあまあ、どうせまた後で出てくるんでしょうから楽しみにしておこう!と思ったら本当に出てこないし。かっこよすぎる。最強のボンドウーマンだ。どうか彼女をWILL RETURNさせてください。署名します。

とにかく、盛り沢山なアバンと、駆け抜ける魅力のアナ・デ・アルマスさん、これでわたしは完全に満足しました。残り時間は余韻でした。163分、長いんだよな〜と躊躇してる方はですね、ここまでなら1時間くらいで多分観れちゃう&払ったお金も確実にペイされる&ジェームズ・ボンドは私たちの心に生き続けるので、文字通り「私はここまで!」で途中退場しても全然いいと思います。

で、感想もしれっとここまでにさせていただきます。非常にかっこいい映画でした。大満足です。

(2021年174本目/劇場鑑賞)



ジェームズ・ボンドとして」

仕上げにこれを観たので追記します。PrimeVideoで配信されているダニクレボンドのドキュメンタリーです。

思えばわたしボンド以降のダニエル・クレイグしか知らないので、ショートヘアじゃない姿がとにかく新鮮! なるほど確かに今の目線で見ても「想像つかない」ことが容易に想像できました。本当に「ボンドになった」んだなあ。

カジノ・ロワイヤル』公開前の誹謗中傷なんてのも全然知らなくて、そんな精神状態であのパルクールシーンを撮っていたのか……とか。海面から顔を出したシーンの流出をきっかけに世界が認め始めた、なんてのもそれ以降の「水」の使い方に影響してそうだなあなどと思ったり。

そしてそして、特に驚いたのが今作、ボンドとしてのラストカット! なんと「私はここまで!」のシーンだったんですよ! マジか!(ベッドで寝ながら観てて大興奮した) 偶然そうなったとも考えづらいし、あえてあの「お別れ」とも「バトンタッチ」とも取れるようなシーンでクランクアップにしたんじゃないかなあ……。

俄然『ノー・タイム・トゥ・ダイ』もう一度観たくなってしまいました。このドキュメント、おすすめです! 47分と短めなのもうれしい。ぜひ!

(2021年175本目/PrimeVideo)