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主に映画の感想文を書いています

映画「街の上で(2021)」感想|よくできたコントのような下北沢青春群像劇

映画「街の上で」ポスター今泉力哉監督の最新作『街の上で』を観てきました。

つい先月も『あの頃。(2021)』が新作として公開されたばかりの今泉監督ですが、この作品じつは昨年の5月に公開予定だったのがコロナ禍で延びていたらしく、撮影時期は2019年7月まで遡るそうです。

遅ればせながら最近やっと観た『愛がなんだ(2019)』がフィットしまくりだったわたし的には、ライムスター宇多丸さんが昨年から面白い面白いとアトロクで絶賛していたのもあって(多分この回)、公開とても楽しみにしていました。で、いざ観て、めちゃくちゃ面白かった!大好き!です!

ざっくりいうと本作は下北沢を舞台にした群像劇若葉竜也さん演じる主人公「荒川青(あお)」は、下北沢に住み下北沢で働く、つまり生活圏100%下北沢な男。そんな彼の、劇的ではないかもしれないけれどそれなりに色々あった数日間を映画は切り取っています。

よくできた2時間のコント

基本的にカメラは定点で、そのフレーム内で淡々といろいろなことが起こるのを観客はただ眺めるのみ。リアリティショーかドキュメンタリーかという地味な長回しを延々見続ける映画体験は、映画館という没入環境でこそ真に楽しめるものかもしれません。ひとつ前に観た『アンモナイトの目覚め(2022)』にも匹敵するくらいじつは静かな映画でした。

が、しかし、これは映画のふりをした実質コントでしょう。そこはかとない可笑しみが、笑うに笑えないムードが最初からずーーーっと漂っていて、それらがとある一点で決定的に交わった瞬間のさっきから黙って聞いてたけどもうだめ我慢できない!!な噴飯感。肩を震わせた笑いがどよめいてくるやつ、久々に体験しました。まあとにかくめちゃくちゃ面白い!です!

魅力的な女性陣

数日の間に主人公のまわりには何人もの女性が登場します。それがいちいち魅力的で、惚れやすいわたしは映画を観ながら2股、3股。まずは、いきなり冒頭で主人公に(物理的な上から目線で)別れ話を突きつける「ユキ」こと穂志もえかさん。え、めちゃくちゃ可愛いんですけど、と開始早々チケット代がペイされました。吉岡里帆さん系の小悪魔感がたまりません。

続いて古本屋店員の「田辺さん」こと古川琴音さん。朝ドラ『エール』でヒロイン二階堂ふみさんの娘役を演じていたのが記憶に新しい彼女ですが、『愛がなんだ』の岸井ゆきのさんとも近い個性的なお顔立ちがとても好き。芝居の練習に付き合ってもらうあたりなど完全に惚れてしまいますわ。

それから学生映画監督役の萩原みのりさん。この方も近年ひっぱりだこで、じつはいろんな映画で見ているんですよね(一番「あれか!!」となるのは『37セカンズ(2020)』の漫画家サヤカ役)。ただあまりお顔の印象がないのでカメレオンなのかも。なお今回の役はベリーショートが好みではなく、惚れずにすみました。

最後に、謎の美大生「城定イハ」こと中田青渚さん。彼女は、わたし、いちばんリアルに、こういう子、弱い。関西弁で一気に距離が縮まる某シチュエーションの長回しは、時間が経つにつれどんどん好きになってきてしまってだめでした。青、おまえ強いな……。

まあそんなわけで『モテキ』的ハーレム状態に中指立てたくもなる映画ですが、若葉竜也さんだと案外そこまでジェラスでもないのが不思議。むしろ、自分自身が下北沢で「荒川青」の人生を疑似体験しているような感覚にすらなりました。楽しかった。あの頃。

はみ出し雑感

書ききれない「好き」が満載なのでいつもの逃げ、箇条書きします。

  • 友情出演・成田凌さんの「朝ドラ俳優役」がメタすぎて最高。これ後々のために一応補足しておくと、公開当時(2021年春)の朝ドラ『おちょやん』では成田凌さんがヒロイン(杉咲花さん)に次ぐメインキャラクターとして出演しています。

  • さらに補足すると若葉竜也さんも『おちょやん』に出ています。杉咲花さんを巡って成田凌さんと三角関係的な状況になったりもしました。本来のタイミングで公開されていたら、ふたりともまだ朝ドラ俳優じゃなかったんですよね。不思議。

  • 中田青渚さん演じる「城定イハ」は青に「城定秀夫の城定」と自己紹介をするのですが、青は城定秀夫監督を知らない気がするなあ(笑) なお城定秀夫監督は『アルプススタンドのはしの方(2020)』の監督さん。公式サイトに寄せられたコメントには「城定秀夫(映画監督/イハとは無関係)」と署名してくれています。

  • イハは他のキャラクターに比べると謎めいた部分が多くて、ひとりだけファンタジー的な存在という感がしなくもないです。彼女視点の『街の上で』も観てみたい。そういえば「上か下か」の「素朴な疑問」は超くだらないけど内心よくぞ聞いてくれた!と思った。

  • 大団円での「ていうかお前誰だよ!」は最たる爆笑ポイントですが、これじつは同じく公開延期組の『騙し絵の牙(2021)』でも松岡茉優さんによる全く同じセリフがあり、何気に今「ていうかお前誰だよ映画」が劇場に2本かかっているのです。とドヤ顔で書こうとしてたらさっきアトロク(21.04.13今泉監督ゲスト回)宇多丸さんが同じこと言ってて出遅れた……。

  • ちなみに「ていうかお前誰だよ!」は脚本になくて、その場の雰囲気で付け加えられたそうですよ。イハの関西弁も、脚本では標準語だったのを兵庫出身の中田青渚さんに「関西弁訳」してもらったそうな。ソースはさっきのアトロク。

  • 撮影順的に『あの頃。』にも『街の上で』からのキャストを多数投入しているとのことで、なかでもびっくりしたのがあの、宇宙猫みたいなシャツが超似合ってた彼。いったい彼が『あの頃。』のどこに出ていたかというと、AV女優の握手会でお弁当差し入れしていたあいつ、ですって!! あいつか!!(ソース同上)

  • 聞いてもいないのに三親等の恋を語り始めるお巡りさんも絶品でした。1回目と2回目、ほぼほぼ同じ台詞なのに、ちょっとだけ進展があってちょっとだけホロッとしてしまう、ていうかお前誰だよって感じなんだけど、がんばれとエールを送ってしまう解せなさ。2回目のときの、妙に姿勢正しく聞いてるユキが好きです。

  • コロナ禍の2021年に見ると、劇中で描かれる「日常」は限りなくファンタジー。あんなふうに気ままな人間付き合いしたいなあ。早く戻ってこないかなあ、あの日常。ご飯が炊かれ麺が茹でられる永遠こと下北沢珉亭にも一度くらい行ってみたい。これは今でも実現可能。

アトロクで今泉監督も言ってましたが、冒頭の台詞は誰の声なのか、とか「おかわり」したくなるポイントがいくつもあってすぐに2回目を観たくなっちゃうんですよね。1回目がまだの方はぜひ映画館で観てください。じつに愛おしい映画でございました。ごちそうさまでした。

(2021年63本目/劇場鑑賞)

映画「アンモナイトの目覚め(2020)」感想|同性愛というだけで類似作品になってしまうのだろうか、と自問自答ぶつぶつ。

映画「アンモナイトの目覚め」ポスター現在公開中の映画アンモナイトの目覚め』を観ました。『21ブリッジ』を観るつもりで映画館へ向かっていたのだけど到着がだいぶレイトなショーになってしまったのでしっぽりしてそうな本作に変えたというどうでもいい経緯あり。

さてこの映画、うつ病を患った上流階級の女性と古生物学者の女性が心を通わせていく物語で、主演はケイト・ウィンスレットシアーシャ・ローナン1800年代前半を生きた実在の古生物学者メアリー・アニングをケイト・ウィンスレットが演じています。非常に重要な発見をした学者でありながら女性という理由で論文などの出版が許されず、彼女についての記録は少ないそうです。

対してシアーシャ・ローナン演じるシャーロットはフィクションの人物。メアリーは生涯独身だったようですが、男性社会で抑圧されてきたメアリーがもし誰かを愛したとしたらそれは女性であった可能性も十分にある、と自身も同性のパートナーを持つフランシス・リー監督は考え、シャーロットというキャラクターを創作したそうです(参考:映画公式サイトのプロダクションノート「思いがけない誕生秘話」)。

ちなみにわたしの場合この予備知識は知らずに鑑賞。てっきり100%フィクションだと思い込んでいたので、主人公が実在の人物かつ実名だったことを鑑賞後に知って驚きました。

それからこちらはうっすら噂に聞いていた件ですけども、なるほど確かに『燃ゆる女の肖像(2019)』と似ている。『燃ゆる〜』を先に観ていたため、少なからず「後発の類似作品」と見てしまったことは否めませんでした。キャストの知名度では本作のほうが断然メジャーなだけに、いかんせんタイミングが惜しいです(ただ、それ以外の「(わずかに)超えられなさ」も正直あるとは感じましたが)。

しかし、今書きながら思いましたけどあれですね。シチュエーションや映像の質感などトータルで似ているとはいえ、「類似作品」扱いされる最たるポイントが「女性同士の恋物語」だとするとそれってどうなんだという気もしてきました。異性愛だったら単なるロマンス要素としてスルーされるところを、同性愛ってだけで一気に記憶のデータベースが『噂の二人(1961)』まで遡って「類似作品」にカテゴライズしてしまう感じ。『82年生まれ、キム・ジヨン』最後の一行みたいな、「そういうこと」なんだなと気付かされちゃう感じ。ううむ、ふくざつ。

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  • 発売日: 2011/06/22
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オードリー・ヘプバーンシャーリー・マクレーンのW主演で1960年代に同性愛を扱った作品『噂の二人』。


まあここはともかく、メアリー・アニングという“Hidden Figures”を知れてよかったとポジティブに考えておくことにします。

(2021年62本目/劇場鑑賞) 最後に2点。エンドクレジットのカリグラフィがおそらく手書きで素敵だった! もいっちょ、メアリーのお母さんがいつも磨いてる置物から『女王陛下のお気に入り(2018)』のウサギを連想した(なんだっけ〜〜って思い出せずモヤモヤしてる人がきっといるはず!)。