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主に映画の感想文を書いています

「モダン・タイムス(1936)」雑感

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チャップリンを初めて観ました。なぜか全くこれまで機会がなかったのです。きっかけは、所属楽団で「スマイル」を演奏することになり、チャップリンの『スマイル』」と言われたところから。

チャップリンの曲じゃないでしょ(笑)と思ったんです。そしたら、チャップリンの曲だった。まじか。作曲もする人だったのか。そこがきっかけです。


お話は、超ざっくり言うと「世知辛いけど、笑っていこうよ」というもの。不意打ちなラストシーンにホロッときちゃいました。大人になると喜劇って泣ける。

ちなみに本作は「ジョーカー(2019)」の劇中に登場しています*1。また予告編でも「スマイル」が使われていました。テイストは対極ですが、わりかし同じような話かもしれません(まあ、だから使われているのでしょう)。ホロ泣きラストシーンでチャップリンがしてみせる仕草は、まさにジョーカーのそれを思わせます。


チャップリンというとサイレント映画のイメージなんですが、この作品では確かにチャップリン本人は喋りません。けど他の人は喋ったりするし、元から組み込まれたサウンドトラックもある。1936年というと、初トーキー映画と言われる「ジャズ・シンガー(1927)」から10年近くが経ち、フレッド・アステアの代表作なんかが次々と生まれていた時代。チャップリン自身のキャリア的にも後期。あくまで表現手法としてパントマイムなり「サイレント風」なりを使っているんですね。

なお本作のチャップリン、喋らない代わりに歌います。これが初の肉声なんですって(でもハナモゲラ語)。そういえば「ジャズ・シンガー」も基本はサイレント映画の形式で進行していって、歌のシーンになると突然本当に歌い出す!という演出が印象的でした。話題のトーキーをしっかり見世物にしてるところがおもしろいです。それでいうと「オズの魔法使(1939)」の、セピア調から始まって扉を開けるとカラーの世界が!っていうのもニクい演出ですよね。ちょっと前のスタイルを演出に昇華させる手法、今なら例えば、アスペクト比で時代を表現するようなのとかかな。

あと意外だったのは、かなり可愛いヒロインが出てくること。 f:id:threefivethree:20191113220144j:plain ポーレット・ゴダードさんというこの方、じつは当時のチャップリンの奥さん。わお。おまけに、「風と共に去りぬ(1939)」企画当初のスカーレット・オハラ有力候補だったらしいです。この強さと愛らしさなら、確かに納得。

などなど、見どころたくさんの一本でございました。ところで本作、パブリックドメインなのかまだなのか、どっちなんでしょ…。今回は迷いつつ結局YouTubeで観ちゃったんですが、なんかいろいろ事情が複雑そう。著作権切れてなかったら、ごめんなさい。

(2019年136本目)

*1:このローラースケートのシーンは撮影方法が面白い! そのほか歯車に巻き込まれるシーンなど、どう撮ってるんだろう…と思うようなシーンが多いです。

「ビフォア・ミッドナイト(2013)」雑感

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ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(1995)」「ビフォア・サンセット(2004)ときて、一気にシリーズ最新作ビフォア・ミッドナイト(2013)まで観ました。

9年スパンで製作されている本シリーズ。1作目から変わらず、キャストはイーサン・ホークジュリー・デルピー、監督はリチャード・リンクレイター。劇中の時間経過もリアルタイムとなっていて、1作目での出会いから18年経ったのが本作です。

あらすじ

「あの日」から18年。ジェシーイーサン・ホークセリーヌジュリー・デルピーは晴れて結ばれ、娘たちと一緒にギリシャでバカンスを過ごしていた。空港で男の子を名残惜しそうに見送るジェシー。彼は前妻との子で、遠く離れて暮らしている。息子と暮らせない鬱憤をジェシーセリーヌに吐き出すが、セリーヌの鬱憤もまた溜まっているのだった。

あらゆる倦怠した関係に

そうきたか…! まあ、そうなるか…。前作が幻滅しない続編だったとすれば、本作は多くの部分において幻滅させられる続編です。ざっくり、倦怠期の夫婦映画です。ウディ・アレンみ出てます

ふわっとフェードアウトした前作から9年後、状況はどうなったのかということがどんどん見えてくる冒頭数分の空港シーン。ロータリーで待つセリーヌの「魔法のかかってなさ」。ああ生活感出ちゃったな…と。

かといってこのふたりが無口な倦怠夫婦になってしまったのかというとそうではなく、空港から15分間ほど固定アングルで延々と続く車中の会話が、おもしろい! 間が持つ! ユーモア健在! やっぱこのふたりの会話は楽しい!

ただ、そんな会話のなかでジェシーセリーヌの地雷を踏んでしまいます。これまでならそんなヒリついた空気もどうにか立て直してきたジェシーですが、今回ばかりはどうにも修復できなさそうな深さにまで亀裂が走ってしまうのでした。

観終わったとき、最初は「違うライフステージの話だから本当には分からないんだろうな」と思ったのです。未婚、子なしのわたしには。でも反芻してみると、男女関係に限らずあらゆる倦怠した関係に当てはまる映画だと思えてきました。

仕事でも趣味でもなんでもいいですが、自分が人生を捧げたもの。少なくとも当初はいい意味で「人生を狂わされた」もの。輝いている時代があったもの。そして今は、それに人生を捧げたことが間違いだったのではないかと思い始めているようなもの。愛憎入り混じったもの。

劇中で、そこそこヒリついているはずなのに団欒の席ではつい馴れ初めを語ってしまうふたりがいます。歩きながら昔話なんぞをしていたらそこそこいい雰囲気になってくるふたりがいます。しかしその数時間後には「もう愛してない」と言ってしまったりもします。

個人的にこれすごい、わかる…。残念ながら男女関係ではありませんが(笑) 今まさにこういう状態にあったなと、突然なにか自分の中でストンときました。要は、長く自分の中心にあったもの、それを否定するかどうかみたいなこと。ヤケを起こしそうになっていたけれど、タイムマシンで未来からやってきたわたしは自分に何を忠告するだろう?と、わりと本当にこの映画を観て思いとどまったかもしれません。

まあなんのこっちゃですね、ここだけ日記です(笑)

ちなみにこれ、ようやくシリーズ観終わっていろいろ調べてたら、鳥肌立つくらい伏線が仕込まれていたことを知りまして。「夫婦喧嘩」「タイムマシン」。この2点が特にうわああ!でした。ピンと来なかった方は、ぜひもう一度「ビフォア・サンライズ」に戻ってみてください。

ものすごいヌードシーン

あのヌードシーンすごくなかったですか。すごいんですよ。あんな両極端なヌードシーンがありますか。同じものを見ているはずなのに、なんという感情の振れ幅よ。人はあらゆるところで魔法のお世話になっているんだなと思いました。

このシリーズは「ものの見え方」の描写がものすごく巧いんですよね。1作目の「祭りのあと」な風景しかり、今回のホテルでのブツ撮りしかり。ショッキングなことがあった時とか、目の前にある物ってああいう見え方しますよ確かに。よくあの感じを映像で再現できるな…!

見え方という点では、くたびれちゃったようにも見えたセリーヌジュリー・デルピーさんはあくまでそう「見えた」だけで、思いっきり魔法がかかってる時もありました。特にマリリン・モンロー風のおバカ娘になりきるくだりなんか、魅力的×抱腹絶倒。最高。

果たして2022年の4作目があるのかは不明ですが、どうなってるでしょうね。案外あっさり別れて、でも距離置いたらまた好き合うようになってたりして。興味あるような、ないようなです。

というわけで「ビフォア」3部作、かなり楽しませていただきました。出会うべくして出会った、運命的なものを感じる作品でした。ただの甘く切ないラブストーリーと思ったら大間違いでございます(2/3は合ってるけど)。

(2019年135本目)

トリロジー、買おうかな…。