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主に映画の感想文を書いています

タランティーノを観よう③「ジャンゴ 繋がれざる者」「ヘイトフル・エイト」

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」をきっかけに、これまで「パルプ・フィクション」以外未見だったクエンティン・タランティーノ監督作品を履修しよう企画第三弾。今回は西部劇シリーズの2作です。

西部劇って「観たら面白い」のは分かってるんですけどあまり食指が動かないジャンルだったりしまして、この2作は重い腰を上げるのに何晩か要してしまいました(オープニングだけ観て他の映画に変えたり、序盤で寝落ちたり)。もちろん、観たら面白かったです。はい。

ジャンゴ 繋がれざる者(2012)

のっけから悠々と流れる「ジャンゴのテーマ」がとっても演歌で(北島三郎が歌ってる日本語版もあるらしい)一度聴いたら離れません。この曲が主題歌になっている1966年の本家マカロニ・ウェスタン「続・荒野の用心棒(原題:DJANGO)」、先に観ておきたかったのですが配信がなくて見送り。「ワンハリ」でも登場するセルジオ “そっちか” コルブッチ監督の作品ですね。

白人の賞金稼ぎシュルツ(前作に引き続きクリストフ・ヴァルツが、今度は怪演じゃなくて好演)と、賞金首捜索の手がかりに彼が買って自由にした元黒人奴隷のジャンゴが主な登場人物。なんでもジャンゴには奥さんがいるのだけども、他の主人のもとに売られちゃって今は離れ離れ。じゃ、賞金首探すの手伝ってくれたお礼にその奪還手伝ってあげるよと気さくに提案するシュルツ。南北戦争直前のアメリカ南部からすると非常に珍妙な白黒コンビの旅が始まった。的な感じのお話。

時代的には「風と共に去りぬ」の冒頭くらいの頃ってことなんでしょうかね。あれにも夫婦だか親子だかで別の主人に売られちゃってた黒人奴隷を買い戻してあげるエピソードがあったなあ。ちなみに西部劇の定義は「南北戦争後」らしいので厳密にはこれ西部劇じゃないっぽいです。南部だし。

1時間ほどするとレオナルド・ディカプリオ演じるサイコパス領主が登場し、さらには白人に魂を売ったサミュエル・L・ジャクソンが登場して、…と画面は大渋滞。黒人同士で殺し合いをさせる、不要になった奴隷を犬に喰わせるなどあまりにもエグく目を覆いたくなるような迫害の数々は、これまでのアメリカ映画で殆ど描かれてこなかった「アメリカの葬りたい過去」なのだとか。

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ウィットに富みすぎててそこまでヤベえ奴には見えてなかったけど静止画で見ると常にヤベえレオ様。終盤、撮影中のアクシデントで出血したまま繰り出されるアドリブは圧巻です。

んで最終的には血のり血しぶきべっちゃぐっちゃ、ダイナマイトどっかーんなマカロニ展開へ。出血量ではこちらのほうが遥かに上回るものの、なんともコミカルにブシャーするので先程とは一転そこまでエグく見えないです。なお、こっちでブシャーされてるのは主に白人。タランティーノ本人もちょっとだけ出てきて、出演時間のわりに華々しく散っていきます(スタントなしの実写撮影だそう。すげー)。

終盤でシュルツが『エリーゼのために』の演奏を「ベートーベンはやめろ」と止めさせるシーンの意味が分からなかったのですが、ベートーベン黒人説だとか、シュルツが同じドイツ人として癪に障ったとか、どれもあまりピンとこなくて、ひとつ面白かったのが「前作『イングロリアス・バスターズ』でクリストフ・ヴァルツ演じるランダ大佐の初登場シーンに流れているのが『エリーゼのために』」だっていうイースターエッグ的なやつ(笑) 個人的にはこの解釈を採用します。

ヘイトフル・エイト(2015)

これはクセ者でした。1時間くらい頑張ったけど完全に目が閉じたので2日に分けて観ました。いろんなレビューを観ていると、やはりこれ、家で観た人はかなりの確率で寝落ちしてますね。なんせ舞台となる「密室」へ辿り着くまでにも1時間かかるし、面白くなってくるまでにはトータル1時間半ほどかかるっていうね。時間の使い方がリッチすぎる。

本作じつは、以前「グラインドハウス」で狙ったのと同じような「映画館体験」がキモになっている作品らしく。超ワイドなフィルムで撮影し、劇場では上映前に「序曲」が流れ(しかもモリコーネ作曲のオリジナル)、本編が1時間半経過したところで15分のインターミッションが入り、といった、今ではリバイバル上映でしか体験できないリッチなことを新作でやってのけたスゴい作品だったのだそうです。そして残念ながら「グラインドハウス」と同じく日本ではそのスタイルでの公開は叶わなかったとか。

という大前提を知らないとただの異常に長ったらしい映画になってしまうので(知ってても長ったらしいですが)知った上で観るのがおすすめです。でも多分その正式なスタイルで観てもこれ、だいぶ眠たくなったところに前半終了間際の一件で「?!」と目覚め、なになになにと思いながらトイレへ立ち、帰ってきてタランティーノによる「前半のあらすじ+αナレ」でなるほどねと分かった気になって後半一気に駆け抜けるんだろうなあ。楽しそうだなあ。

密室劇、誰かが嘘をついている…的な展開、ムダ話が長くて眠くなる等々、タランティーノ作品だと真っ先に「レザボア・ドッグス」を連想する本作。ティム・ロスも出てるし。他にも、床下のアレは「イングロリアス・バスターズ」の逆バージョンかなとか、「デス・プルーフ」のゾーイ・ベルまた車の屋根に乗ってるよ!とか、打倒「ジャンゴ」なウルトラ吐血ウケるとか、つい他作品が頭をよぎるシーン多々で面白いです。

タランティーノ作品のバイオレンス描写って、基本的には「ふはw」って笑っちゃうようなやつが多くていいですよね。「ジャンゴ」のラストも完全にコメディだし(おててパチパチ拍手するブルームヒルダが狂気じみた可愛さ)、「ワンハリ」にしたって。みんなコメディなんだよな。

そういえば「雪」「密室」「嘘」「8人」が共通する「8人の女たち」なんてフランス映画もありました。 客層は共通しないように思いますがこっちも好きなのでプッシュしておきます。コメディです。

てなわけで、普通に1本ずつ書けばいいのにねってくらい楽しめた2作でした。配信で観れるのはここまで。あとはディスカス再開して、物理レンタルかな。とりあえずタランティーノ、どれ観てもそれぞれタランティーノだな〜!って頷けちゃう素敵な監督でした。めっちゃ好きの部類に入ります。

(2019年98・99本目)

ヘイトフル・エイト [Blu-ray]

ヘイトフル・エイト [Blu-ray]

配信は、PrimeVideoだと課金なのでNetflixにて観ました。

タランティーノを観よう」シリーズ

「大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯」「ハイドリヒを撃て!」本と映画の雑感

大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯(サイモン・ピアソン 著/吉井智津 訳)

大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯 (小学館文庫)

大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯 (小学館文庫)

先日大脱走(1963)を観た(感想記事)あとに読んでいた伝記本。といってもスティーブ・マックイーンの役ではなく、本書で描かれている人物はこちらです。

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劇中での名はロジャー・バートレットですが、モデルとなった人物の名はロジャー・ブッシェルといいます。ロジャーは実際に「大脱走」を指揮し数多くの功績を残すも、33際の若さでゲシュタポに命を奪われました。ジャーナリストである著者は幼い頃から映画「大脱走」に親しんでおり、第二次大戦下の英雄であるはずの彼について詳細に記した文献がないことを不思議に思って本書の執筆に取り掛かります。

映画の中でマックイーン演じるヒルツと並んで存在感を放っている“ロジャー・バートレット”リチャード・アッテンボロー。彼は他のキャラクターより少し遅れて収容所に到着し、ただならぬ気迫で「大脱走」計画を立ち上げますが、そこに至るまでの“ロジャー”はどんな経験をしてきたのでしょうか。何があそこまで彼を燃え立たせたのでしょうか。目元にある傷のわけは? 本書を読むとそんなバックストーリーを知ることができます。

約600ページある本書が「大脱走」に差し掛かるのはなんと450ページほどを過ぎてから。それもそのはずというか、多少の脚色こそあれど映画は概ね史実どおりに作られていますから、ロジャーが収容所に到着してから生涯を終えるまでは基本「映画どおり」なんですよね。

ではそれ以前の部分で彼がどんな人生を送ってきたのか。どんな家庭に生まれどのように育ち、どんな趣味を持ってどんな経緯で軍に入り、どんな戦争を体験しながら映画冒頭の登場シーンに至ったのか。3分の2以上がそれらのことに費やされた本書を読んでからあの登場シーンを観ると、開始早々駆け寄って抱きしめたくなってしまうこと必至です。

フィクション顔負けの人生

得てして「事実は小説より奇なり」なわけですが、ロジャー・ブッシェルもまたその数奇なひとり。例えば、彼が最初にドイツ軍の捕虜となった経緯は映画ダンケルク(2017)のラストシーンと重なっていたり。

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撃墜されたスピットファイアとイギリス空軍兵。これはまさにロジャー・ブッシェルの姿そのもの。

これを知ったとき、あの人が収容所に入れられて「大脱走」を起こす話なのか!!とたいそう驚きました(一応、「あの人」ではないですけどね)

また、本書と併せてフォロワーさんからおすすめされた映画「ハイドリヒを撃て!」を事前に観ていたことも、驚きの体験をもたらしてくれました。以下どさくさ紛れの鑑賞記録、2019年94本目(PrimeVideoを貼りましたがNetflixにも入ってます)。

ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦(2016)

第二次大戦中、ドイツ軍占領下のチェコにて計画・実行された、統治者ラインハルト・ハイドリヒの暗殺作戦「エンスラポイド作戦」を描く作品。かなり細部まで史実どおりに作られており、エンタメ色強めの「大脱走」とは違ってだいぶ暗い映画です。なので非常に疲れる。

ハイドリヒの殺害には成功しますが(ナチス高官の暗殺計画で唯一成功したものだそう。なおハイドリヒはヒトラーヒムラーに次ぐ「ナンバー3」だった)、実行者たちが最後に身を潜めた聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂で惨劇が起きます。

史実上「墓場」となる場所へ主人公たちが来てしまった時の締め付けられる思いはノンフィクション作品特有のもの。実際にその地を訪れた経験がある人のそうした感想を鑑賞後に読んで、史実ベースの映画作品というのはエンタメ的かどうかに関わらずその部分に最も心を揺さぶるものがあるんだよなと思いました。「大脱走」鑑賞のきっかけである「ワンハリ」しかり。

で、さて、時代背景以外あんまりロジャー・ブッシェルと交差することのなさそうなこの話ですが、一体どんなふうに関係してくるのでしょう。これはすごいです。読んでいると特に、この状況で交差しないでしょと思えてくるので余計です。事実は小説より奇なり。フィクションのような生涯を送る人がいるのだなあということです。

本書をより興味深く読めた理由に、ロジャーの没年が33歳で、わたしの年齢が33歳、というところがあります。同じ33年の使い方として、どうよ??と自問せざるを得ません。このタイミングで彼の人生を知ることができたのはちょっとした運命的なものだったりするかも。

それから、あまりにあっけない最期。積み重ねなんて関係なく人は死ぬんだよなと、改めて思いました。本書でいえば550ページかけて描かれてきた人生が、いきなりたった1行で終わるわけです。そんなもんなんですよね。

いきなりゲームオブスローンズ最終章のネタバレしますけど、

デナーリスのラストはノンフィクション的でわたし割と好きなんですよ。あのラストに非難轟々だった頃「いやいや人生そんなもんでしょ」って思ってたので、その気持ちが裏付けられたな、って。

妙な脱線をしましたが、発端から言えば映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」きっかけに「大脱走」を観て、本書を読んで「ダンケルク」や「ハイドリヒを撃て!」と繋がって、ちなみに大脱走」主演のスティーブ・マックイーンシャロン・テートらと親交があったことからあわやあの日マンソン・ファミリーに殺されていたかもしれなかった、みたいなぐるぐる感を味わっていたわけなので脱線もまた正規ルートです。よろしくどうぞ。