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主に映画の感想文を書いています

ローズ(1979)

楽曲「ローズ(The Rose)」が有名な作品。個人的には「おもひでぽろぽろ(1991)」で使われていた印象が非常に強いです。「おもひで〜」は確か、初めて映画館で観た映画だったはず…。

あらすじ

お騒がせなカリスマ女性シンガー、ローズ。控えている故郷凱旋公演を終えたら一年間の休みが欲しいとマネージャーに申し出る彼女だったが、強く説得されて考えを改める。凱旋公演に至るまでのツアー行程と人間模様、ロックスターの不安定な感情をリアルに描いた作品。

雑感

「The Rose」があんな落ち着いたバラードなのでしっとりした作品を想像していたら、ジャケットを見た瞬間「いや、違いそうだな」と(笑) 一応ジャニス・ジョプリンをモデルとしたフィクション作品らしいですが、どちらかというと完全ノンフィクションな「ローズ」のドキュメント、という印象を強く受けました。

というのも一番の理由はまずライブシーンの説得力。主演のベット・ミドラーの歌唱力と、アテフリではないバンドの演奏、多分あれ実際にその場で演奏して歌ったものを録っていると思います。一度ライブが始まったら1〜2曲はしっかりノーカットで見せてくれるので、普通にライブビデオを観ている感覚になります。「When A Man Loves A Woman」がとても好き。

最初こそ「このパッとしない顔のねーちゃんがスターなの…?」と疑わしく思ったものの、鏡の前でスイッチを入れていく姿、「いいかい、今日はマザーファッカーだけは言わないでくれよ」と念押しされてからの「マザファカーーーーーーーー!!!!!」、そして圧巻の歌唱とカリスマMC、ワキ毛に黄ばんだ歯、うん、スターだ、と納得。オーディエンスもリアルなんですよ。頭の上に片手を乗せたままフロアで立ち尽くしてる女性客が一瞬映るんですけど、あれわかる!! スタンディングのライブで我を忘れてああなることある!! 超わかる!!

ローズの心を救済してくれる謎のタクシードライバーが登場してしばらくはとても楽しい映画です。特にオカマバーで居場所にすっぽり収まったローズは、本当に楽しそう。彼を怒らせてしまったときでも、ニューヨークに銭湯なんてあるんだ!っていう(笑) とにかく彼がいる間は落ち着きます。そのぶん、彼を失ってからの悲壮感がつらい。電話ボックスのシーンは一番つらいですね。あの頃のロックスターって誇張じゃなく結構ああだったんだろうなと。

野外の凱旋ライブはスタジアムの使い方が今とだいぶ違っておもしろかったです。実際ジャニス・ジョプリンも全く同じようなスタジアムライブをやっていたようで(画像はジャニスのもの)。これはキャパ調整ということになるのかな? 観やすくてよさそう。

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映画の終盤にあたるこの野外ライブ、歌えないんじゃねーのというコンディションで歌い上げる曲がまた素晴らしくて、しかしまだ歌われていない「The Rose」はこれから歌うのか…? 今度こそぶっ倒れそうだけど歌うのか…? みたいな、本当にライブを観ている感覚でした。結局エンドロールだったわけですが。ローズが「The Rose」歌ってる姿、見たかったなあ。ベッド・ミドラーが歌ってる映像はあるけどイコールではないし。ローズで見たかった。それほどの没入感。

ドラムに関して

本作でローズのツアーメンバーをしているドラムのペンティ・グラン(Pentti Glan)さん、バスドラの向きがものすごい個性的なんです。縦置き?横置き?なんて表現したらいいのかわからないけど、初めて見ました(画像は本作のもの)。

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f:id:threefivethree:20180813113743j:plain:w200:rightカクテルドラムみたいにビーターの動きを改造したペダルで下から踏み上げてるようですね。この件について触れてる記事、沢山あるかな?と思ったら全然見つからなかったので、解決にはなっていませんがとりあえず「なんじゃこら」と言及しておくことにします。

舞台である60年代当時ちょいと流行っていたセッティングなのか、それともペンティ・グランさん独特のものなのか。ひとつだけ同じセッティングをしている、おそらくご本人の写真があったので、後者なのかな…? 何か情報お持ちの方おられましたら教えていただけると嬉しいです!

そんな面からも楽しめる映画でした。普通に音楽映画として、ブルース寄りのロックが好きであれば特におすすめです。

(2018年183本目)

卒業(1967)

卒業 [Blu-ray]

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よくタイトルは聞くけれどいまいち観る気が起きなかったシリーズ。サイモン&ガーファンクルの楽曲を演奏する機会ができたのでその勉強も兼ねて鑑賞しました。おもしろかったー!

あらすじ

誰もが将来有望と信じて疑わない優等生ベンジャミン。大学卒業を機に実家に帰ってくるが、彼の心は将来への不安で満ちていた。そんなある日、自宅でのパーティーに来ていたロビンソン夫人から車で家まで送ってほしいと頼まれ、送り届けるベンジャミン。帰ろうとすると夫人は彼を引き止め、その様は誘惑しているかのように見えた。あわや、というところで主人が帰宅。冷や汗を拭うベンジャミンに対し、知る由もなく「若いんだから羽目を外せよ!」とアドバイスを与える。

後日、夫人のことが頭から離れなくなってしまったベンジャミンは夫人とホテルで待ち合わせ、誘われるがままに一夜を共にする。その夜以降ふたりの情事は数ヶ月にわたって続き、実家での彼は怠惰に過ごすのみだった。心配した両親に無理やりセッティングされるかたちで彼はよりによってロビンソン夫妻の娘エレインとデートをすることになる。夫人の手前、気のないそぶりを見せるベンジャミンだったが……。

あらすじが書きやすい!(笑) ここまでにしておきます。

雑感

いや〜、面白かった! おもしろかったというより、単純に面白かった! 将来有望と期待され続けてきた若者が大学卒業を境にどんどん壊れていく話なのだけど、独特の軽さがあるんですよね。編集も粋だし、とにかく2時間弱まったく飽きることなく観続けられる感じ。わりと眠い時間帯に観てたのでこれは確かです。

ざっくり「夫人編」の不倫パートと「娘編」の恋愛パートに分かれていて、まずは夫人編。アン・バンクロフトさん演じるミセス・ロビンソンサイモン&ガーファンクルによる同名の挿入歌を聴くために鑑賞しました)がですね、見事に魅惑的な人妻像として描かれております。素晴らしいキャスティングです。「昼下がりの情事」って聞いて想像するのはこっちだよね〜っていうようなフェロモン祭りを見せてくださいます。

そして一応本作の主人公ベンジャミン。彼は「遊び慣れしてない若者」ポジションなわけですが、それがまたお見事。初ベッドインに至るまでのキョドり芸の数々は思わず声出して笑っちゃう。演じているのはこれが映画初主演のダスティン・ホフマンで、Wikipediaによれば当初ロバート・レッドフォードにオファーをかけたものの「童貞顔してないでしょ(意訳)」と断られたそうな。ちなみにこの二人は「大統領の陰謀(1976)」コンビです。

後半の娘編は、大半が未練タラタラのおひとりさまロードムービー。「君のお母さんと寝ちゃったけど、でも信じて、僕は君のこと愛してるから」とひたすら彼女を追い回すベンジャミン。狂気。陸上選手の設定を活かした「バスより速い元カレ」とか、完全にギャグですよ。ちょっと心の距離が縮まったら今度は「明日結婚する?」って詰め寄りまくるし。ギャグですよ。

ほんでラストシーン。これはわりと感動(物語にではなく)したんですけど、花嫁強奪展開の元祖らしいですね。今でこそフィクションでは見慣れた光景である「教会からウェディングドレス姿の花嫁を奪取してそのへんの道を全力で走ってバスに乗り込んで大笑い」的なやつ。これまでいろんなドラマなどで見てきたこの光景がみんな本作から派生したものなのだとしたら、すごい!&すごいものを見た!

編集が粋、とさっき書きましたが、たとえば夫人の裸体が「ファイト・クラブ(1999)」ばりのサブリミナルで何度も挿入されてくるところとか、潜水ゴーグル越しの狭い視界とか(あれはどんな意味なのかしら)、情事シーンと実家シーンが次々とシームレスに繋がれていくスリリングな編集とか、不倫をバラされた夫人が「グッバイ、ベンジャミン」の言葉をきっかけに思いっきりズームアウトされていくところとか、エンストに合わせて「ミセス・ロビンソン」のアコギが徐々にスローダウンしていくアテレコ感とか、撮影も編集もすごく尖っていておもしろかったです。

あとはなんだろう、父がプレゼントしてくれた車のおかげで夫人と接近することになり、その亭主がかけてくれた「羽目を外せよ!」という言葉のおかげでこんなことになり、っていう(笑) うん、とにかく面白かった。シリアスなドラマ映画かなと思って観てない方には「いや全然そんなんじゃないですよ」とおすすめしたい一本です。お休みの日の昼下がりにおひとりでどうぞ。

(2018年182本目)