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主に映画の感想文を書いています

トロピック・サンダー/史上最低の作戦(2008)

トロピック・サンダー/史上最低の作戦 [Blu-ray]

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ベン・スティラー監督兼脚本兼主演、ロバート・ダウニー・Jrジャック・ブラックマシュー・マコノヒートム・クルーズ等々、そうそうたる面子による強烈におバカな、しかし玄人向けな戦場コメディ。

超あらすじ

戦争映画の撮影中。迫真の演技をさせるため実際の戦場さながらなジャングルに放り込まれた俳優たちだったが、到着早々に地雷で木っ端微塵になった監督を見て「もしかしてここは本物の戦場なのでは?」と疑い始める。

知識があってこそ本当の意味で笑える風刺映画

本作は毎度おなじみライムスター宇多丸さんの本(TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』)で宇多丸さんがだいぶ楽しんでらしたので興味を持って鑑賞したのですが、結論から言うとわたしにはまだちょっと早かったです。というのもどうやらこれ、ハリウッドの映画制作事情をとことん皮肉ったりパロッたりしているようで、わかりやすいギャグで表面的に笑うことはできても、本当のおもしろさというのは多分そういったハリウッド事情に通じていないとわからないのであろう、と思うんですね。

すごい凝った作りになっていて、まず冒頭、いきなりフェイクの予告編映像が次々と流れてきてなかなか本編に入らないのですけど。そのフェイク予告編だけでもきっと相当な情報量なのだろうということが、わからないなりにわかってしまうのです。そしてそれを確信に変えたのが、町山智浩さんのこちらの解説。

全30分のポッドキャスト中、なんと15分ほどを使ってこの予告編について解説されてます(笑) 当然、30分に達する頃にはまだ序盤のさわりくらいしか言及できていないという、逆に言えば町山さんほどハリウッド事情に明るい人であれば映画冒頭部だけでも早口で30分語り倒せるほどの情報量がある映画、ということになります。よって、わたしがここに知ったかぶりして書けるようなことはありません! 町山さんのを聴いてください!(笑)

まあとはいえ、黒人役に憑依しすぎて黒人としか思えないロバート・ダウニー・Jrのじわじわくる面白さとか、到底トム・クルーズとは判別できない別人系トム・クルーズとか、なによりいきなり地雷で吹き飛ぶ監督とか、全編シュールに徹した独特な笑いは事情抜きでも楽しめます。最後はなんかいい話だなって思っちゃったし。スプラッタ方面含めてだいぶブラックジョークがエグいので、そういうのあんまり得意じゃないわたしは少々引いてしまいましたが。

カメラを止めるな!」にも通じる作品

先日鑑賞した「カメラを止めるな!(2017)」にもすごく通じる作品だなと思っていて、というか今回鑑賞したきっかけというのは「そういえばなんか似たような設定の映画あったよな」と思い出したからなんですが、実際すごく通じるものがありました。

たとえば、二層構造になっているところ(そして一層目に漂う超B級感)、映画やテレビの制作現場を描きながら風刺的な要素も含んでいるところ、入り込みすぎる役者、人が変わる監督、予想外のトラブルにも「カット!」をかけてもらえないところ、意外とほろっとしてしまうところ、等々。莫大な予算と超豪華なキャストを使ったハリウッド版「カメラを止めるな!」的作品のひとつですね。またベン・スティラーの背景を知ると、制作兼主演ライアン・レイノルズの執念が詰まった「デッドプール」シリーズにも通じるなと思ったり。

というわけで、上記の町山さんの解説をしばらく聴いてみてピンときた方はおそらく真の意味で楽しめると思うのでおすすめします。わたしは、いつかリベンジできる日が来るのかどうか(笑) とりあえずだいぶわかった気にはなりました!

(2018年153本目)

七人の侍(1954/4Kデジタルリマスター版)

七人の侍 [Blu-ray]

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三船敏郎志村喬主演、黒澤明監督作品。先日の「椿三十郎」に続いて「午前十時の映画祭」にて4Kデジタルリマスター版を劇場鑑賞してきました。

あらすじ

戦国時代。野武士の襲来を察知したとある小さな村の村人たちは、米で侍を雇い、村を守ってもらおうと考える。侍探しのため宿場町へ赴いた数名の村人は、道中出会った頼れる浪人の勘兵衛(志村喬)を説得。村を守るには7人は必要だと官兵衛は算段し、残り6名の侍探しを開始する。縁あって集まった5人の侍と勘兵衛は、事態が急を要することから6人で妥協して村へ向かおうとするが、しつこく尾けてくる妙ちきりんな菊千代という男(三船敏郎)に根負けし、なんだかんだ7人で村へ入る。しかし、侍たちの到着を告げても村は静まり返っており、人っ子ひとり出てこなかった。

やはりスクリーンで観ておかねば

本作は初見ではなく、去年だったか一度DVDで鑑賞しております。3時間半にもわたる長尺映画ということで相当気合いを入れて臨んだものの、気合いなんて必要ないくらい引き込まれて一気に観終わってしまい、「明日また観たい!」なんて思った記憶があります。今回のこのリマスター版は2016年の「午前十時の映画祭7」用に作られたもので、そんなのあったのか〜〜それで観てみたかったな〜〜と悔しい思いをした記憶もまたあります。 というところに、ラッキーな再上映です。先日の「椿三十郎(1962/4Kデジタルリマスター版)」が非常に良かったので、3時間半の映画館こもりに若干の不安を覚えつつも行ってまいりました。ちなみに一番の動機は「実際の映画館で『休憩』を体験してみたかった」です(笑)

完全初見、かつシネマスコープの大画面、かつ劇場の一体感が得られやすいコメディ要素山盛り、などなど強みの多かった「椿三十郎」ほどの衝撃は受けていませんが、やはり「台詞の鮮明さ」はなかなかすごいなと思いました。ソフト鑑賞時はあまりにも聞き取りづらくて日本語字幕をつけていた本作。今回のレストア作業により、集中してれば問題なく聞き取れるくらいになっていました(ただ冒頭の野武士だけは無理だった)。

内容は、三十郎シリーズを観た直後なのでなおのことビターさが際立ちます。開始2時間くらいで休憩に入るまで敵襲は一切なくそのほかの描写に徹しているからこそ、後半戦闘シーンになってからの無慈悲な展開がとてもつらい。ここで「つらい台詞トップ3」を発表します。

「苦しい時に重宝すると言ったな。これからが苦しい時なのだが」
「これは俺だ」
「もう野武士はいない!」

つらい。他にも、台詞が聞こえやすいおかげで思わずホロリとしてしまうシーンも多々ありました。序盤に登場する宿屋の人足たちが急に優しさをみせてくれるところとか。志村さんの「この米、おろそかには食わんぞ」もかっこいいよなあ。

映像で印象に残っているのはやはり墨汁入りの大雨戦闘シーンですね。味方の亡骸を引き上げることもできないくらい、一旦放置して戦い続けなければならないくらい混乱した戦場、エグいです。このへんはやはりスクリーンの大画面で観ると没入感がすごい。「負け戦」を肌で感じてしまいます。

初見時の新鮮な感想をしっかり書いておけばよかったなと後悔しつつ、今回は二度目なのであっさり目に。念願のスクリーン鑑賞、そして念願の「休憩」を体験できてよかったです。ただし休憩の「5分」は思った以上に短いです(笑)

(2018年152本目 劇場鑑賞)