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主に映画の感想文を書いています

十二人の怒れる男(1957)

「怒れる」は「いかれる」と読みます(「眠れる森の美女」の「眠れる」と同じ形だそう。なるほど!)。1954年放送の同名テレビドラマを映画化した作品で、「オリエント急行殺人事件(1974)」などのシドニー・ルメット監督デビュー作。

あらすじ

父親殺しの容疑で、スラム出身の少年が裁判にかけられている。有罪と判断されれば彼は死刑。生死のゆくえは12人の陪審員たちに委ねられた。

今年いちばん暑い日。壊れているのか陪審員室の扇風機はスイッチがつかない。とりあえず決を取ろう、これで満場一致ならもう帰れる。有罪だと思う者に挙手を求めるも、手の数は11本。唯一挙手しなかった陪審員8番に視線が集まる。

彼は言う。「無罪かどうかは分からない。ただ、少年の生死を5分で決めてしまうのはあんまりだ。せめて1時間でも議論してやろうじゃないか」。やれやれ、という空気のなか、陪審員たちの長い午後が始まった。

密室劇の最高峰でした

何かきっかけがあって借りてきたはずなんですがなんだったか…。ひとつ覚えているのは、先日アステアの「踊る結婚式(1941)」を観たときに不倫発覚のシーンで「12人の男はどう思うかしら」という台詞があって、その意味をとっさに脳内変換できなかったことですね。でもそのあとにまだきっかけがあったはず…。まあどうでもいいので置いておくとして、そう、「12人の男」とはアメリカにおける陪審員のことです。

裁判所の陪審員室というワンシチュエーションで繰り広げられる密室劇。その情報だけでもう絶対おもしろいでしょと期待値ガン上がりでしたが、そんな期待をも上回るレベルで間違いなく面白かったです。素晴らしいです。

「あとは陪審員の君たちに委ねる。有罪と結論した場合は死刑になるからそのつもりで」と簡単なルール説明がされ、数秒だけ映される被疑者の少年。この何分にもならないシンプルな冒頭部分がまず秀逸。彼らがこれから人の生死を決めなければいけないこと、そしてその対象がこの少年であること。ほんの少しの、しかしきわめて重要な情報が最初にあるかないかで全く違ってくると思います。

どんどん部屋の空気が悪くなっていく演出も見事です。真夏日なのに冷房が効かない会議室という、想像するのもおぞましいような環境。加えてスーツ姿の男性12名。暑い…。過ぎてゆく時間、暮れてゆく空、夏の夕立、こりゃナイター中止かな。さぞ混沌とした空気に満ちているのであろう長引く会議特有の「あの感じ」を観客もそれぞれ実体験から引っ張り出して、悲しいかなリアルに味わうことが可能。

そんな閉塞感を100分近く共有することで、白熱の議論が終わり裁判所の外へ出たときの解放感も共有できて、これがまた非常に気持ちのいい空気なのです。記憶に新しいところだと、同じく密室劇の名作「ブレックファスト・クラブ(1985)」のラストや、精神的密室劇と言える「尼僧物語(1959)」のラストなど、画面越しに伝わってくる「気持ちのいい空気」というのは確実に存在するので不思議なものです。

多角的に見ることの大切さとおもしろさ

本作はまあその陪審員制度そのものに対する云々、というのも勿論あるのでしょうけども、ひとつの事柄をいろんな角度から見ようとしてみることの大切さとおもしろさを個人的にはすごく感じられる作品でした。わたし結構すぐ「なるほど」と納得してしまって、「いや、それってこうなんじゃないの」と考えてみることに欠けているタイプなので、日頃からちょっと意識してみようと思わされました。

また、議論の場における反面教師が多く登場する、という面でも価値ある作品です。特に、すぐ人の話を遮って攻撃的なことを言う人、まくし立てているうちに自己矛盾を起こしてしまう人、きれいなブーメランを投げてしまう人、あたりはスペシャルサンクスな反面教師と言えるでしょう。言っていることが破綻して自分で「あっ」と気付いてしまったときの哀れな顔、さらにそれに気付いた周りの人たちの「ああ…」という冷ややかな顔などが劇中で幾度もクローズアップされます。じつに印象的です。気をつけなくては。

当初書こうと思っていたのよりだいぶ違う方向性の感想になってしまいましたが(本当は「めっちゃおもしろかった!!!」っていう方向性で書きたかった笑)、ストーリーも12人のキャラ付けも何もかも非常におもしろかったです。なんと、法廷ミステリーの超名作「情婦」と同じ年の作品なんですね! すごいぞ1957年。「昼下がりの情事」も「パリの恋人」もあるぞ、すごいぞ1957年。

というわけで密室劇がお好きな方はもちろん、震えるほどおもしろい映画を探している方にはマストでおすすめしたい映画「十二人の怒れる男」でした。未見でしたらぜひ!

(2018年145本目)

ショーシャンクの空に(1994)

言わずと知れた名作映画、ですが初見です。

あらすじ

ショーシャンク刑務所に、終身刑の囚人アンディが収監される。罪を訊かれると彼は「無実だ」と言い、先輩囚人のレッドは「ここではみんな無実だと言う」と返す。はじめは仲間を作ろうとしなかったアンディだが次第にレッドたちと打ち解け、やり手の銀行員だった経歴を生かして刑務官や所長からも特別扱いを受けるようになる。アンディは確実に刑務所内で上り詰めていた。

20年ほど経った頃。軽犯罪の常習犯で刑務所を渡り歩いてきた若い囚人からの情報により、アンディが本当に無罪であることを証明する手がかりが見つかる。再審を希望するアンディだったが、自分の汚職に彼を関与させていた所長はアンディの訴えをはねのけ、手がかりを知る若い囚人も射殺してしまう。ある日、彼が縄を調達していたと聞き、ひどく心配するレッド。翌朝の点呼にアンディは応えなかった。

刑務所のリタ・ヘイワース

本作、スティーブン・キングの小説「刑務所のリタ・ヘイワース」が原作になっています。ここのところわたしの中でリタ・ヘイワースが大ブーム。観るタイミングをすっかり失ってしまったこの有名作の鑑賞にはうってつけのタイミングと口実です。

アンディが入所したのは1947年。劇中で映画鑑賞の時間がありますが、そこでヒューヒュー言いながら観ているのは1946年公開のリタ・ヘイワース主演作品「ギルダ」。

ギルダ [DVD]

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つい最近鑑賞したばかりです。そりゃヒューヒュー言いますって。わたしも、今「ギルダ」の応援上映とかあったら勇んで行ってヒューヒューしたいです。リタ・ヘイワースはそれくらい魅力的な当時のセックスシンボルだったのでございます。

冗談か本気か、アンディは調達屋のレッドに「リタ・ヘイワース」を所望。レッドは薄っぺらいリタ・ヘイワース(ポスター)を彼にプレゼントします。本作でおもしろいのは、このポスターで「外の時代」をあらわしていること。1957年、アンディの入所10周年を祝って今度はマリリン・モンローのポスターをプレゼントしたレッド。1955年公開「七年目の浮気」の有名なシーンがアンディの壁を新たに飾ることになりました。

マリリン・モンローは、リタ・ヘイワースに次ぐセックスシンボルとして人気を集めた女優。現代では彼女のほうが一般的に知られているかもしれません。

レッドによるセックスシンボル最新事情便はまだ終わらず、入所20周年記念にはラクエル・ウェルチのポスターをプレゼント。こちら逆にわたし存じ上げなかったのですが、この当時大人気だった「ビキニの女王」的な女優さんらしいですね。ポスターは1966年公開「恐竜100万年」のものです(当然未見、すみません)。

こうなると30周年記念のポスターが気になるところですけども、喜ばしくも残念ながらレッドによるこのシリーズはここで打ち切りとなりました。

結局リタ・ヘイワースはそこまで関係がなかったのね、と思いきや。非常にニヤける要素が混ぜ込まれていたのでご紹介。映画「ギルダ」のなかにこんなシーンが出てきます。見覚えないでしょうか。

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そう、所長の部屋にある隠し金庫です。画像だけでは分かりませんが「ギルダ」のこれも、肖像画を上にスライドすると出てくる隠し金庫です。全く同じ。これは「ギルダ」ちゃんと観たことある人じゃないと分からんぞ!!と、めちゃくちゃ嬉しくなりました。だって多分、本作公開の1994年時点でも50年前の「ギルダ」を観たうえで映画館へ行った人って相当少ないと思うんですよね。そんな人向けの、嬉しいサービスですね。

アルカトラズの空に…?

アルカトラズからの脱出 [Blu-ray]

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本作で非常に戸惑ったことがあります。それは1979年公開のクリント・イーストウッド主演作「アルカトラズからの脱出」と似た要素があまりにも多いことです。モーガン・フリーマン演じる調達屋のレッドからして「アルカトラズ〜」の主要キャラであるイングリッシュと大いに被りますし、図書係の囚人、ポケットで動物を飼う囚人、入所早々ケツの穴を狙ってくる囚人、所長のルックス、道具のしまい場所、道具で成し遂げたこと、そのほかいろいろ、リメイクかと思うほどとにかく似てます。

原作が古いのか?と思うも、スティーブン・キングが「刑務所のリタ・ヘイワース」を発表したのは1982年とのこと。これは少々気になる点でございます。いや別に、いいんですけどね。ただびっくりするほど共通点は多いので(脱獄ものだから似通う、とかいうレベルではない)、本作の刑務所シーンが好きな方はぜひ「アルカトラズ〜」のほうも観てみてくださいませ。

なかなか雨が降らなかった

ジャケットなどのイメージで、「ショーシャンクの空に」といったら「雨」と紐づいてしまっており、ちっとも降らないじゃないかと思いながら観てました(笑) あんな汚物まみれのシーンだったとは…。あそこからの巻き返し劇は「頭の良さは希望であり武器だなあ(わたしにゃ、ないなあ)」という感じでなかなか爽快でしたし、「縄を調達」以降の展開も全く知らなかったので純粋にハラハラしながら観ることができました。

レッドの語りで進行していく作りはとても良かったのですが、個人的に最後の最後は蛇足かな…という感想。その前の「この先の話は知らない」くらいで止めておいてくれればいいのに! みなまで言わなくていいのに! と思ってしまうわたしは、「君の名は。」の最後で再会を見せないで欲しいと思う派であり、「フルーツバスケット」の最終回で年老いたふたりを見せないで欲しいと思う派です(笑)

(2018年144本目)